BEGINのデビューアルバムの中の1曲
「追憶のシアター」にこんな歌詞がある。
♪二回目のShowは 魔法忘れたマジシャン
女たちの慰めに
嘘と薔薇をと変えてやるしかできない
(作詞:松井五郎)
映画「イリュージョニスト」には、
この歌詞そのままのような手品師タチシェフが登場する。

脚本はジャック・タチが娘のために書いたという
「イリュージョニスト」の舞台は1959年のヨーロッパ。
ビートルズが現れるちょっと前の時代だ。
人々の娯楽が少しずつ変化し、時代遅れの手品師は、
劇場からどんどん追いやられていく存在だ。
都会のミュージックホールの仕事を失い、
タチシェフがたどり着いたのは、
スコットランドの小さな島にあるバー。
都会の喧噪とはまったく違う島の中では、
まだ手品師の需要はあった。
しかし、そんな場所でもジュークボックスがバーに届き、
いずれは手品師の存在も消えていくことを予感させる。
そんな島のバーで働く少女のアリス。
タチシェフはボロボロになったアリスの靴を見て、
お店で靴を買い、魔法のようにアリスに差し出す。
アリスは、タチシェフは魔法使いと信じ、
島を去るタチシェフを追いかけて、都会へと出て行く。
ほとんどセリフもなく、
どこかノスタルジックなアニメ映像で
ストーリーが淡々と進んでいく。
そこには移りゆく時代の背景が見事に描き出されている。
同時に、それとはまったくの別のベクトルで、
時代から置いて行かれていくタチシェフの黄昏れてゆく姿も。
その映像のコントラストは本当に素晴らしい。
ショメの前作「ベルヴィル・ランデブー」は、
とてもおもしろかったけれど、映像としては
ちょっとシュールすぎた感じもあるが、
この「イリュージョニスト」は、
ジブリ映画にも通じる郷愁感があり、
当時のヨーロッパをまるで旅をしているかのような
ロードムービー的でもある。
その美しい風景を見るだけでも十分価値あり。
物語の続きは、エジンバラにたどり着いたタチシェフは、
アリスにかつていた自分の娘の面影を感じていた。
都会の生活に憧れ、流行の服をほしがるアリスのために
タチシェフは最後までイリュージョニストを演じ続ける。
やがて魔法をかけられたように、
少女から都会のレディーになっていくアリス。
そしてタチシェフはその前からひっそりと去っていく。
「魔法使いはいない」と書き残して。
懐かしくて、あまりに素敵で切ない。そんな言葉がぴったりくる映画だ。